教える立場の人が知っておくと良い話

僕は普段、人の教育に関わるようなお仕事をやっているわけですが、最初にイチバン困ったことが「こちらのいうとおりに動いてくれない」ということです。

向こうから「ぜひお願いします」という形でやってきているにも関わらず、こちらの指示したとおりに動いてくれないんですよね。

 

おそらく、こういうことは誰しも経験のあることなんじゃないかなって思うわけですが、そんなとき自分がどうするべきなのか、ものすごく参考になったのが、ドン・キホーテ創業者の安田さんの話です。

安田さんがドン・キホーテの1号店を出したとき、従業員に対して、小売のプロとしての立場から商品の仕入れや陳列・販売に対して指示を下すわけですが、どれだけ同じ話を繰り返したところで全く理解してくれなかったそうなんですよね。

では、一体どうしたのか?

以下、「安売り王一代 私の『ドン・キホーテ』人生」という本の中から引用させてもらいます↓

 

いったいどうすれば従業員に私の考えが伝わるのだろう?

例のごとく、私は悶々とはらわたの底からもがき苦しんで考えた。

教えなければ従業員は動かない。もちろん当時のドン・キホーテには、いちいち指示しなくてもオーナーの意を汲んで動く、〝できる社員〟など一人としていない。

「もうダメだ、やめよう」と思ったことも一度や二度ではない。店の売却話に心を動かされたこともある。しかし、最後に踏みとどまった。

そして悩みに悩んだ末、最終的に私は教えるのをやめた。あれほど教えてもダメなのだから、そもそも教えるという行為自体が無意味なのだ。そう結論せざるを得なかった。

「これでダメならきっぱり諦めよう」と腹をくくって、「教える」のではなく、それと真逆のことをした。

「自分でやらせた」のである。

それも、一部ではなく全部任せることにした。従業員ごとに担当売場を決め、仕入れから陳列、値付け、販売まですべて「好きにやれ」と、思い切りよく丸投げしたのだ。しかも担当者全員に、それぞれ専用の預金通帳を持たせて商売させるという徹底ぶりである。これこそ、のちにドンキ最大のサクセス要因となる「権限委譲」と「個人商店主システム」の始まりだ。

安田隆夫.安売り王一代私の「ドン・キホーテ」人生(文春新書)(Kindleの位置No.722-732)..Kindle版.

 

結果として、この「丸投げ」戦法は成功したとのことです。

もちろん、全てを任せるわけですから、怒鳴り散らしたくなるような失敗をされることも山ほどあったのですが、

裁量をもたせてからというもの、以前よりも従業員がイキイキと働きだしたので、とにかく辛抱強く彼らの成長を見守ったそうです。

そして、このときの経験が現在のドン・キホーテという大企業への誕生につながっているわけですね。

 

で、ここから先は、この話を聞いて僕が思ったことですが、そもそも人間っていうのは、自分が見たいもの・聞きたいものしか認識できないようになっているんですよね。

だから、教える立場にある人間が、相手のためを思って「あとで失敗しないように…」と、いろいろアドバイスをしたところで、まだ困った経験のない本人からすれば、何を言われているのか分からないのも仕方ありません。

結局のところ、人は自分の経験からしか学べないということなんでしょう。

 

というわけで、以前の僕は、余計な回り道をしないように、アドバイスする気満々で指導していたのですが、

この話を聞いてからというもの、アドバイスは2割くらいにとどめて、残りは話を聞いて共感することに努めるようにしました。

当然、こちらとすれば「余計な回り道をしているなあ」なんて思ってしまうわけですが、それをどうこう言ったところで、本人の気は変えられないのですから仕方ありません。

それよりも、早くたくさん失敗してもらって、その経験から学んでもらうようにしたほうが確実だし、スムーズなのかなって思ったりします。

 

だから、(自分を含めて)人を変えるって本当に難しいことですね。

というか、そもそもの話「人を変える」という発想が良くないのかもしれません。

そうではなくて、その人の存在を認めた上で、その人なりの成長を支援する…という考えかたにシフトしたほうが、物事も上手くいくのかもなあって思いました。

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