精神的な不調が病気とみなされづらい時代

  • 2020年6月12日
  • 2020年6月12日
  • 健康

心の問題に興味を持ったことから「身体はトラウマを記録する」という本を読んでいて、まだ途中ではあるのですが、ページを読み進めるたびに「心に問題を抱えている人がいかに多いか?」ということに驚かされてしまいます。

この本によると、例えば、アメリカでは精神病の研究が進み、精神薬などが開発されたにも関わらず、うつ病改善の治療を受ける人は過去20年で3倍になり、10人に1人が抗うつ薬を服用しているそうです。

10人に一人って、自分に置き換えて想像してみると、かなり多いように思いませんか?

いかに現代人が心を病みやすい環境に置かれているのか、それがなんとなく伺えるような気がします。

 

あるいは、他に子どもの精神病についても書かれている部分があって、そこも衝撃的だったので、以下で引用させてもらいます。

現在、五〇万人のアメリカの子供が抗精神病薬を服用している。低所得の家庭の子供は、個人保険に加入している子供よりも、抗精神病薬を処方される率が四倍も高い。この手の薬は、虐待を受けた子供やネグレクトされた子供を従順にさせるために使われることが多い。二〇〇八年、五歳以下の子供一万九〇四五人が、メディケードを通じて抗精神病薬を処方された。一三州のメディケードのデータに基づくある研究によると、里親に養育されている子供の一二・四パーセントが抗精神病薬の処方を受けているが、メディケードの対象となる資格を持つ子供全体では、その数字は一・四パーセントでしかないという。こうした薬を服用すると子供たちは扱いやすくなり、攻撃性が弱まるが、モチベーションや遊び、好奇心といった、きちんと務めを果たして世の中に貢献できる社会人へと成長するのに欠かせない資質には差し障りが出る。そのうえ、抗精神病薬を服用している子供は、病的肥満になって糖尿病を発症する危険もある。一方、精神科の薬と鎮痛薬の組み合わせによる薬の過剰服用は、増加し続けている。

ベッセル・ヴァン・デア・コーク;杉山登志郎.身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法 (Kindleの位置No.1004-1016).株式会社紀伊國屋書店.Kindle版.

 

一体、どんな生活を送れば、子どものうちから精神薬に頼らざるを得ない状態になるのでしょうか?

彼らの家庭環境を少し想像するだけでも、痛ましい気持ちになってきます。

 

心の問題については、うつ病を題材にしたマンガや映画などの作品が有名になったりしたこともあって、たしかに昔に比べれば随分と認知されてきたのかもしれません。

ただ、それでも身体の病気に比べれば、まだまだ知られていないことが多いだろうし、その予防意識も低いままのように感じます。

例えば、トイレに入って血尿が出てきたら、誰だって病院に行って診察を受けるでしょう。

でも、それに対して「いくら食べても食べたりない」とか「何人もの異性と関係を持っても満足できない」とか、あるいは「お酒を浴びるように飲まないと気が済まない」といったことについては、個人の性格上の問題として片付けられるわけで。。

 

こういったことを考えると、精神的な不調のサインが明確に出ているにも関わらず、それを見過ごしてしまっている人が多いのではないでしょうか?

どうにもならない状態まで悪化しないと、病院に行って診察を受けようとする人がいないわけで、そういうこともあって、患者の数が減らないんだと思います。

つまり、予防意識が圧倒的に低い。

 

で、これは関係ないように見えて、関係のある話なのですが、こういう話を聞くと、産業革命の時代の労働者たちの話を思い出してしまうんですよね。

例えば、19世紀の労働者たちというのは、子供の頃から一日中、石炭を運び続けるような重労働に明け暮れていました。

だから、小さい頃の過剰な肉体労働のせいで、十分に身体が発育せず身長は低いのだけれど、筋肉だけはムキムキで…みたいな人が多かったそうです。

そして、そういう人は、だいたい30代で死んでしまうという…。

 

そこで登場するのが、かの有名なマルクスです。

彼は、そういった労働者たちに「いまの労働環境はおかしいですよ」ということを主張したわけですね。

こう聞いて「そんなの当たり前じゃん!」と納得できないかもしれません。

でも、当時はそれが常識だったわけで「自分が働きすぎだ」なんて思っている人は少なかったんですよ。

 

で、そんなことから労働者の環境は徐々に改善されていき、例えば現在だと「労働基準法」というものがあって、「1日8時間以上の労働は身体に悪い」という共通の理解が得られています。

まあ、それがキチンと守られているかどうかは、また別の話ですが。。

とにかく、当時と比べれば、身体の健康を保つために世の中は大きく変わりました。

でも、心の健康については、まだ蔑ろにされたままだと思うのです。

だから、もし100年後の未来を僕らが覗けるのだとしたら、現在の精神病を生みやすい社会で生きざるを得ない僕らを憐れむ未来人たちの姿が確認できるかもしれません。

まるで、僕らが100年前の労働者たちの悲惨さを憐れむように。。

 

…と、まあ、そんなわけで精神的な不調を病気のサインと受け取れる人は少ないよねっていう話でした。

とにかく、僕らは「辛い」とか「苦しい」という感情に、もっと敏感になったほうがいいと思います。

そういった感情に気づけたところで、生活のための仕事を辞めるわけにはいかないし、どうしても付き合わざるを得ない人間だっているでしょう。

でも、自分の感情に気づきさえすれば、なにかしら対策を取ることはできるわけで、逆にそこを無視してしまうと、取り返しのつかない事態に陥ってしまいますからね。

外部の声ばかり聞いて、心の声を無視し続けたせいで、足元をすくわれるなんてことにならないよう、僕も気をつけます。

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