ユングの自伝を読んだりすると、無意識の不思議さであったり、人間の心の複雑さに驚かされるばかりで、ぜひ心の問題に興味がある人にはおすすめしたい本なのですが、
そこでふと疑問に浮かんだのが、彼らの立ち上げた「精神分析」という分野は、いまでも精神病の治療に使われているのか?ということです。
で、僕がGoogleで軽く検索して調べた限りですが、いまの精神病の治療というのは、脳科学とか神経科学を応用した生物学的な立場が中心で、
フロイトやユングたちの精神分析学は、主流からはすっかり外れてしまっているみたいですね。
そう聞くと、彼らの話に感動した僕としては少し残念な気がするのですが、ただその一方で、「そうなるのは仕方ないのかもしれない」と感じたりもしました。
というのも、彼らは精神病について、話し合いによる治療を中心としていたからです。
心の病というのは、無意識へと抑圧した葛藤が原因になっているので、それを話し合いを通して、意識の側で患者に気づかせてあげれば、症状がよくなると考えていたんですよね。
ただ、話し合いによる治療というのは、当然ながら、効果を測定するとか、結果を評価するとか、数字をもとに改善していくことできませんし、
治療の進め方についても、個人の経験に左右される職人技みたいなもので、これは標準化できるようなものではありません。
だから、これを医学とか科学として考えるのは、なかなか難しいだろうなと思うわけです。
実際、ユング自身も「科学は一般性を持って研究するものであり個人の多様性を扱うのは難しい」とか、「心の分析に決まった手順はない」みたいなことを自伝の中で述べていたりしますからね。
ただ、そうはいっても、彼らの考えた仮説というのは、あながち間違っているわけではなく、それなりに正しいからこそ当時は支持されてきたわけですし、現在の精神医学だって、精神分析の知見を取り入れつつ発展してきたわけです。
だから、そういう意味では、僕らが人間の心を理解しようとする上で、フロイトやユングについて学ぶことは、いまでも十分に価値があるとなんだと思います。