僕らが日常でよく目にする「やるべきだとわかっているけど行動できない」という現象について、心の問題が原因になっていることもあるのではないかと思い、「身体はトラウマを記録する」というトラウマ治療についての本を読んでいます。
すると、こんな興味深い箇所が出てきました。
マイヤーは、ペンシルヴェニア大学のマーティン・セリグマンと共同研究を行なった。彼の論題は、動物における学習性無力感だった。マイヤーとセリグマンは、錠を下ろした檻に犬を閉じ込め、痛みを伴う電気ショックを繰り返し与えた。二人はそれを「逃避不能ショック」と呼んだ。犬好きの私は、自分にはそのような研究は絶対にできないだろうと思ったが、この残虐な行為が犬たちにどんな影響を及ぼすかには好奇心をそそられた。
マイヤーとセリグマンは、何度か電気ショックを与えたあと、檻の扉を開き、再び犬たちにショックを与えた。それまでショックを与えられていなかった対照群の犬たちは、ただちに逃げ出したが、以前に逃避不能ショックを与えられていた犬たちは、扉が全開になっていたにもかかわらず、まったく逃げようとしないで、ただその場に横たわり、くんくん鳴きながら脱糞していた。トラウマを負った動物、あるいは人間は、逃げ出す機会があったとしても、ただそれだけでは自由の身になる道を必ずしもたどるとはかぎらない。マイヤーとセリグマンの犬と同様、トラウマを負った多くの人はあっさりと諦めてしまう。彼らは新たな選択肢を試す危険を冒さずに、旧知の恐れにがんじがらめにされたままになるのだ。
ベッセル・ヴァン・デア・コーク;杉山登志郎.身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法(Kindleの位置No.777-783).株式会社紀伊國屋書店.Kindle版.
トラウマというのは、「嫌なものから逃げる」という僕らにとっては当たり前の行動すら、難しくさせるほどの影響力があるみたいです。
僕は、いままで学校や会社で問題を抱えて自殺してしまった人の報道なんかを見て、「死ぬくらいなら辞めればよかったのに…」と思ったりしていたのですが、どうやら事態はそう簡単に解決できるわけじゃないようですね。
心の傷を負うと、普段ならできることでも、できなくなってしまうのです。
で、こういったことを考えると、「行動したいのになぜかできない」という問題は、やっぱり、学習性無力感のような心の問題が関係しているんでしょうね。
決して、本書に出てくる人たちのような深いトラウマを抱えていないとしても、仕事で失敗を繰り返すうちに「頑張ってもムダだろう」というふうになってしまうとか。
少なくとも、ただ「やる気がないだけ」で片付けてしまうのは違うでしょう。
というわけで、さらに続きを読み進めて、この問題の解決のヒントを探していこうと思います。
かなり分厚い本で、まだ読んでいる途中ではありますが、参考になるところがたくさん出てくるので、興味を持った人はぜひ読んでみてはいかがでしょうか?