エーリッヒ・フロムは、20世紀に活躍した社会心理学、哲学、精神分析学の研究者です。
かの有名なマルクスは、上部構造(政治や思想)と下部構造(経済機構)という概念を持ち出して、歴史や社会を説明しようとしたわけですが、
フロムはそこからさらに、フロイトなどの精神分析学の知識を応用した社会的性格という要素を追加して、人間の心理というものが、いかに社会に影響を与えているかを説明しようとした人…なんだと僕は思っています。
もっと平たく言うとするなら、「社会や歴史を理解したければ、政治・思想・経済みたいなものだけじゃなく、人間の心もちゃんと知っておかなきゃいけないよね!」というかんじでしょう。
まあ、こう言うと当たり前に聞こえますが、フロイトが出てくる以前は、人間の意識的な側面からしかモノを見れなかったわけで、無意識という視点から世の中について考える人はいなかったわけですね。
そんなわけで、フロムの著書というのは、心理学に興味がある人だけでなく、歴史とか経済とか政治に興味がある人が読んでも、面白いんじゃないかあと思っていて、
少なくとも、いわゆる理系的なものにしか興味のなかった自分が、歴史や哲学や、精神分析という分野に興味を持ったのは、間違いなくこの人の本を読んだからなんですよね。
カタめなテーマを扱っているということもあり、文章は少し難しかったりするかもしれませんが、それを考えても絶対に得るものは大きいと思うので、ぜひとも読んでみてほしいです。
それぞれの本の感想や要約については、また別の機会に追加していけたら…と思います。
愛するということ
フロムの著書の中で、イチバン最初におすすめしたい本がこれです。
「愛」という誰しもに関わることをテーマにしているので、イチバン取っつきやすいと思います。
ベストセラーとして世界的に売れた本であり、フロムの著書でイチバン有名なのは、次に紹介する「自由からの逃走」か、この本のどちらかでしょう。
愛というものが真に成熟した人間にしかたどり着けないものであり、本当に誰かを愛せるようになるためには、僕らはどのように生きるべきなのか?といったことを教えてくれます。
なので、安い恋愛テクニックの本とかではなくて、もっと根源的な、道徳的な正しい生き方についての本だと思ったほうがいいかもしれません。
とにかく、愛について常識だと思っていたことが、根底から覆されるような本なので、ぜひとも一度読んでみてもらいたいです。
自由からの逃走
次におすすめの本がこちらになります。
ナチス・ドイツは第2次世界大戦を引き起こし、多くのユダヤ人を虐殺した、いわゆる歴史の汚点としての扱いを受けているわけですが、「じゃあなぜそんな政党が民衆から支持されたのか?」ということの心理的な分析をしている本です。
誰しも一度は「自由な人生を歩みたい」と考えたことがあるでしょう。
それくらい自由というのは、みんなにとって価値のある、喜ばれるべき存在なはずです。
でも、それなら、なぜファシズムというものが登場した途端、みんなが自分の自由を投げ捨ててしまったのか?
実は、自由というものには、「積極的な自由」と「消極的な自由」というものがあり、前者の自由は、さきほどの「愛」と同様に、真に成熟した人間しか享受できず、ファシズムの台頭は、後者の消極的な自由しか得られなかった人たちが関係しているという話です。
そして、この本の最後の方で、フロムは「いまの僕らの社会は本当の意味での自由を実現できているか?」という問題提起をしています。
ファシズムがなくなった現在、僕らの考えが目に見える権威に支配されることはなくなったけれど、その代わり、消費主義などの匿名の目に見えない権威に支配されていて、
これは、ナチスドイツとは違って、目に見えない匿名の権威であるがゆえに、以前にもまして危険な存在なのかもしれないという警鐘を彼は鳴らしてくれています。
人間における自由
こちらの本は内容的には、さっき紹介した「自由からの逃走」の続きになっています。
「自由からの逃走」は、どちらかというと診断的な内容ということもあり、「ではいかにして自由は得られるのか?」という倫理学を、精神分析の立場から考える内容になっています。
ちなみに、この本の原題は「Man for himself / An inquiry into psychology of ethics」というもので、そういう点からも、精神分析に裏付けされた倫理学についての話であることがわかるかと思います。
この本で面白いなあと思ったのが、「幸福には客観的な基準がある」という主張です。
よく「幸せは人それぞれだ」なんていいますが、それに反対する立場の人々は昔からいて、その代表がアリストテレスやスピノザなのですが、フロムは幸福の基準を「心の健康としての精神分析学」にもとめているんですよね。
僕が倫理学というものや、アリストテレスの「ニコスマス倫理学」や、スピノザの「エチカ」に興味をもったのも、これがきっかけです。
なので、「何のために生きるのか?」とか「幸せってなんだろう」という疑問がある人は、ぜひ読んでみるといいのではないでしょうか。
ただ、困ったことに日本語訳の本が絶版になっているのか、ものすごく古びたかんじの中古のものしか売ってないっぽいんですよね(Amazonのサイトの写真を見てもらったらわかると思うのですが)。
なので、できる人は英語で読むとか、両方用意して、心配なところだけ日本語訳のもので確認するとかがいいかもしれません。
生きるということ
この本も「人間における自由」と同じく、原題を知ったほうが内容について想像がつきやすいんじゃないかと思います。
この本の原題は「 To have or To be? 」になります。
現在の資本主義的な考え方によって生まれた「持つこと(To have)」による存在様式と、自分の能力の使用にもとづく「であること(To be)」という生産的な存在様式の違いを解説していく…というのがおおまかな内容です。
フロムがユダヤ人であるからか、「であること」の視点から聖書の内容の解説をしている部分があって、「そういう読み取り方もあるのか」と感心しました。
「宗教」=「うさんくさいもの」とか、「昔の宗教からは学べることはない」みたいな捉え方をしている人って意外と多かったりして、それはきっと現代の科学的な知識からくる考え方なのでしょうけど、
科学というのは、あくまで「事実」に関わるものですから、「人間にとって何が幸せなのか?」という実践的な知識は、あまり教えてくれないんですよね。
それにも関わらず、僕らは「富や名誉といった社会的成功さえあればい幸せだ」なんて思い込んでいるわけで。。
その点、キリストや仏陀などの優れた宗教的指導者というのは、科学的な知識はなくとも、「人間がどう生きるべきか」ということをいまの僕らよりも深く理解していたんだなと思いました。
最後に
とりあえず僕が読んだものについての紹介は以上になります。
フロムの著書は他にもいろいろあるので気になるのですが、僕としては、当面はそちらを読むよりも、彼が影響を受けたスピノザやマルクスなどを勉強したいなあと思っています。
今回紹介した本については、また別の機会にでも、感想と要約の記事を書きたいですね。