幸福の定義とは「徳に基づく活動」である

以前に紹介した「ニコスマス倫理学」の中で語られている幸福の定義について説明していきたいと思います。

  

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幸福には客観的な基準があるのか?

 

「人間にとって何が幸福なのか?」というのは、かなり難しいテーマで、中には「それは人によって違うから定義なんてできないよ」と考える人もいると思います。

しかし、アリストテレスは「決してそんなことはない」「なにか客観的な基準があるはずだ」と考え、何かしらでもって幸福というものを明確に定義しようと試みました。

 

幸福とは究極の目的である

 

彼がまず最初に考えたのは、「幸福というものは、それ自体が目的であり、他の目的のための手段ではない最高の善である」ということです。

人はみな幸せになることを願って、あれこれ活動するわけですが、そうやって幸せになろうとするのは、なにか他の目的のためではなく、幸福になること自体が目的だからですよね。

つまり、人間にとって「最高に善いもの」=「幸福」であるということになります。

 

人間にとっての善悪をどうやって判断するか?

 

そこで、アリストテレスは次に「善」というものについて考えました。

なにかにとって、それが善いものであるか、悪いものであるかという問いかけは、そのものの「はたらき」とか「本性」というものが理解されなければいけません。

 

これは例として適切なのかわかりませんが、ポストイットという製品がありますよね。

あれって、簡単に剥がれてしまうので、接着剤とかセロハンテープとしては失敗作なのですが、本やノートに貼る付箋としては最適だといえます。

つまり、同じポストイットというものでも、その「はたらき」によっては良くも悪くもなる。

それと同じようにして、人間にとっての善悪を考えるためには、人間のはたらき・人間の本性を知らなくてはいけない…という理屈になるわけです。

 

人間の本性と幸福の定義

 

じゃあ、人間のはたらきって一体なんなのでしょうか?

それは、ここでは「他のものにはない人間に固有のすぐれた機能」みたいな意味合いになるわけですが、

「栄養を摂取し繁殖していくことか?」というと、それは植物でもできますし、「なにかしら活動することか?」というと、感情とか本能に従って活動することは、人間じゃない他の動物にも可能です。

 

で、そうやって考えていけば、人間に固有のはたらきというのは、おそらく理性で判断するとか、そういうところにありそうな気がしてきます。

そんなわけで、アリストテレスは人間のはたらきというものを「徳に基づいた魂の活動である」というふうに考えました。

そして、人間の幸福というものを、この「人間固有のはたらき」を生涯に渡って実現し続けていくことだと定義したわけです。

 

徳とは一体なんなのか?

 

この幸福の定義というのは、人間の本性を「徳」というよくわからないものに押しやってしまっているので、若干ズルい定義のような気がします。

数学でいえば、未知数をXとして方程式を立てる…みたいなかんじでしょうか。

ただ、この「徳」というものについて、アリストテレスは、ニコスマス倫理学の続きで解説してくれています。

 

ちなみに彼によれば、徳には「数学の定理について証明する」みたいな知的な徳と、「相手のためを思って行動する」みたいな人柄の徳というものに分類があって、

さっきも言ったように、徳とは人間だけに固有の働きのことでなのですが、そういう点では、たしかに両方とも納得できます。

徳についての詳しい話は、長くなってしまうので、また別の機会があれば書いてみたいと思います。

 

科学の発展によって失われたもの

 

この話は、ニコスマス倫理学の最初のほうで出てくるわけですが、僕個人としては、この部分を知れただけでも、この本を買った価値があったなと思いました。

 

幸福論についてよくありがちなのって、

  • 社会的な成功のように外的なところにあるという立場
  • 幸せは周りの環境にあるのではなく感情などの自分の内側ににあるという立場

という2つの意見がよく目立つじゃないですか。

でも、そんな中でアリストテレスが幸福について、外的でもなく内的でもなく、「ある種の活動にある」と結論づけているのには、なんだかシビレました。

 

僕らは科学によって、事実を収集する方法については、ものすごい進歩が得られたわけですが、

「いかに生きるべきか?」といった倫理的な面については、それほど進歩していなくて、一部の人たちを除けば、むしろ退化しているんじゃないかな?なんて思えてきます。

事実の収集ばかりにしか関心がなく、自分の人生には興味をなくしてしまった…みたいな。

 

それに比べて、こんな素晴らしい結論が紀元前の時代に出ているのをみると、やっぱり昔の人は偉かったんだなあ…と。

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