秘書問題と順位最小化問題

みなさんは秘書問題というものをご存知でしょうか?

意思決定をする上で参考になるような面白い問題なのですが、具体的には説明すると以下のようなものになります。

1.秘書を1人雇いたいとする。

2.n 人が応募してきている。n という人数は既知である。

3.応募者には順位が付けられ、複数の応募者が同じ順位になることはない(1位からn位まで重複無く順位付けできる)。

4.無作為な順序で1人ずつ面接を行う。次に誰を面接するかは常に同じ確率である。

5.毎回の面接後、その応募者を採用するか否かを即座に決定する。

6.その応募者を採用するか否かは、それまで面接した応募者の相対的順位にのみ基づいて決定する。

7.不採用にした応募者を後から採用することはできない。

このような状況で、最良の応募者を選択することが問題の目的である。

秘書問題(Wikipediaより引用)

では、このとき最良の応募者(つまりランキング1位の人)を採用するには、どうしたらいいのでしょうか?

実は、それは数学的に解き明かされていて、参考文献によれば、その方法は次のものになります。

  1. まず最初の$s-1$人までは面談を行うのみで採用はしない。
  2. 面談を行った$s-1$人のうち一番良かった人を相対順位1位の人と呼ぶことにする。
  3. その後、$s$人目以降は相対順位1位の人を超える人が現れたら採用する。

この戦略で採用を行ったとき、成功確率を最大化させる$s$を$s_{max}$、そしてそのときの成功確率を$B_{n}$とすると、これらは近似的に

$$\lim_{n \to \infty} s_{max}/n = e^{-1}, \qquad \lim_{n \to \infty} B_{n} =e^{-1}$$

となることが知られています。

とはいえ、これでは抽象的すぎるので、もう少し具体的な例を上げてみます。

例えば、100人の応募者の中から一番いい人を選ぶには次のようにします。

  • 最初の37人は点数を付けるのみで無条件でパスします。
  • その37人中で一番良かった人を相対順位1位の人と呼びましょう。
  • その後、38人目以降は相対順位1位を超える人が来たときに採用します。

この方法で一番いい人を採用できる確率は37%であり、これが理論上の最大値になります。

で、この秘書問題では「1位の人を取れなければ失敗」というふうになっているのですが、実際のところは「一番いい人じゃなくてもいいから、なるべくランキングの高い人を取れるようにしたい」と考えるのが自然だと思います。

これは「順位最小化問題」と呼ばれていて、この場合、最適な採用方法は以下のものになります。

  1. まず全体の26%をパスする
  2. その後、総体順位1の応募者が出現すれば直ちに採用。
  3. もし45%まで面接しても該当者が出現しなければ、その後は相対順位1でも2でも採用。
  4. さらに56%まで該当者が出現しなければ相対順位3にまで採用を緩和する。
  5. (以下略)

こんなふうに徐々に採用基準を緩和させていくわけです。

ちなみに、4位以降については以下の式で計算できます。

$$ t_{s} = \prod_{j=s}^{\infty} (\frac{j+2}{j})^{-\frac{1}{j+1}} , \qquad s =1,2,…$$

で、この方法で採用を行ったとき、採用できる人のランキングの期待値は、

$$ \prod_{j=1}^{\infty} (\frac{j+2}{j})^{\frac{1}{j+1}} \approx 3.8695 $$

ということで、平均的には4位までの人を選ぶことができるのだそうです。

さて、ここから何が言えるのか。

まず全体のおおまかな傾向を掴むのに、それほど多くの候補者と面談する必要はないということ。

秘書問題では37%、順位最小化問題では26%だったわけで、おおよそ全体の3分の1の人と面談すれば、どんな人を採用すべきかなんとなく掴めることになるわけです。

なので、なにか挑戦するときは全体の3分の1は様子見としてあれこれ試してみて、残りの3分の2で一番良いものを追求していくという戦略を取るといいのかもしれません。

例えば、1年間でYoutubeのチャンネル登録者数を1万人にしたいとしましょう。

その場合は1年間の3分の1、つまり4ヶ月ほどはいろんな企画を試してみて、そのうち最も可能性のある市場・テーマ・ジャンルを残りの8ヶ月で攻めていけば、目標を達成する確率が最大化される…とか。

あるいは、就職活動をするにあたって、使える時間や労力を考えたとき、100社ほどリサーチするので精一杯だとしましょう。

このとき、ランダムに企業を選んできたうちの33社(100社の3分の1)ほどをリサーチすれば、自分がどんな業界・企業に行きたいかをおおまかに理解できるわけで、じゃあ、残りの67社は関心のある業界のみの企業をリサーチしよう…みたいなかんじです。

もちろん数学と現実は違うので、そのまま応用できるかというと微妙ですが、この秘書問題というのは、いろいろなことを考えさせてくれる素晴らしい問題だと思います。

参考文献

玉置光司. “秘書問題: 2 つの最適停止問題の不思議な対応 (特集 最適停止とその応用).” オペレーションズ・リサーチ 60.3 (2015): 125-131.

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