佐藤秀峰さんの「マンガ貧乏」がとても面白かったので
今日はこの本の紹介と感想を書こうと思います。
佐藤秀峰さんは「海猿」や「ブラックジャックによろしく」などで知られるマンガ家さんです。
「海猿」はドラマや映画になって大ヒットしたので知っている人も多いのではないでしょうか?
「ブラックジャックによろしく」もドラマになっていますが、
こちらはそれよりもネット上で無料公開されことでかなり有名になってますね。
無料なのであなたもぜひ読んでみてください。
さて本題の「漫画貧乏」ですが、こちらでは出版業界の裏事情や
佐藤さんがなぜ自分のマンガを無料で公開することになったのか、その経緯が書かれています。
ぼくは週刊誌で連載を持つマンガ家さんはみんなお金持ちだと思ってたのですが、
全然そんなことないと知ってビックリしました。
以下ではマンガ家さんの金銭事情について詳しく話してみようと思います。
◆漫画を描けば描くほど貧乏に…
連載を持つ漫画家さんの収入は主に2つあります。
1つは原稿料、そしてもう一つは印税です。
原稿料は雑誌に掲載するにあたって出版社からもらえるお金で、
原稿のページ数に応じて払われます。
印税は漫画が単行本になって売れた際に作者に入ってくるお金ですね。
この印税は一冊当たり10%と決まっているそうです。
佐藤さんが「海猿」を連載し始めた当初の原稿料は1ページ当たり1万円だったそうです。
週刊誌となると毎週20ページほど書くので、
ひと月あたり80万円の原稿料になります。
月80万円というとかなりの収入に聞こえますがそんなことはありません。
なぜなら漫画は原作者一人ではなく
アシスタントさんなどを雇って複数人で書くものだからです。
つまり人件費が発生します。
しかもそれだけじゃありません。
他にも取材費用、仕事場の家賃・光熱費、税金などがあります。
これらを原稿料だけで補うのはほぼ不可能だそうで、
実際に佐藤さんの場合は毎月7万円の赤字だったそうです。
赤字ですよ!
連載をもって毎日12時間以上働いて、
ひどいときには徹夜で作業して…。
それで7万円の赤字。
この赤字は単行本が売れた際の印税で補うしかないのですが、
ここでちょっと考えてみてください。
マンガ家さんの中には週刊誌などで連載を始めたものの、
読者からの人気を集めることができず、
マンガが単行本として出版されないまま連載終了する人もいます。
こういったマンガ家さんには印税が入ってきません。
つまり半年間頑張って働いたのに残ったのは借金だけ…なんてことも十分あり得るのです。
マンガ業界には「連載貧乏」という恐ろしい言葉があるそうですが、
こんな悲惨なことになってしまう人がたくさんいるそうです。
おそろしいですね^^;
うまく単行本になっても…
マンガが単行本化されて印税が入るようになってもまだ問題があります。
(2009年度に)単行本を発行した漫画家さんの数は約5300人だそうで、聞くところによると、トップ100人の印税収入を計算すると平均で約7000万円ということになっているそうです。
さすがにトップ100人となるとすごい額ですね。
では、残りの5300人のマンガ家の印税収入は?というと、平均額でみるとなんと約280万円だそうです。
ここから原稿料の赤字分や税金などを差し引くと、ほぼ何も残りません。
作画スタッフへ支払う給料に満たないどころか、時給800円のあるバイトをした方がはるかにマシです。
これが、いわゆる漫画週刊誌に連載する漫画家の、平均的な姿といっていいでしょう。
(佐藤秀峰「漫画貧乏」より)
このように、マンガ家として連載をもつようになってもそれで生活が成り立つ人はほんの一握りなのです。
収入以外にもマンガ家になるにあたって不安要素がたくさんあります。
たとえば、
・一般的に出版社との契約は口約束、書面を交わしたりしない。
・だから編集者が変わって一方的に打ち切られることもある。
・掲載している雑誌が廃刊になったとき、出版社の社員は別の雑誌に移動すればいいがマンガ家は行く当てが保証されない。
…などなど。
出版社に対してマンガ家の立場は弱く、
かなりブラックな環境を強いられるのです。
◆出版というビジネスが成り立たなくなっている
厳しいのはマンガ家さんだけじゃありません。
実は出版業界も年々不況になっているのです。
紙の本が売れなくなってきてるわけですね。
ある大手出版社の発行している週刊マンガ雑誌は毎週発行する度に2000万円以上の赤字になるそうです。
毎週2000万円って一年になるとものすごいお金ですよね…。
この赤字は単行本の利益で何とか埋め合わせている…という状況だそうです。
そしてこの状況はあらゆるジャンルの雑誌にもいえることで、
日本の90%の雑誌が深刻な赤字を抱えているのです。
このままいくとマンガ雑誌というものがなくなってしまい、
ひいてはマンガ家という職業がなくなってしまいます。
◆電子書籍へ…
この状況に危機を感じ、
「マンガの未来をなんとかしよう!」
「マンガ家の待遇がもっと良くなるような環境を作ろう!」
と立ち上がったのが佐藤秀峰さんです。
彼はあるときネット上にマンガを公開することを考えました。
それが「漫画 on Web」です。
「漫画 on Web」ではプロ・アマチュアにかかわらずマンガを掲載することができ、
読者は気に入ったマンガ家さんから作品を購入することができるというサービスです。
このサービスができた当初は出版業界からの批判があったり、
作品数と読者が少ないことで苦戦を強いられました。
しかし、このサイト上で「ブラックジャックによろしく」が無料で公開されたことがきっかけになり爆発的に利用者が増えました。
2012年の時点では2万人以上の会員をもつサービスになったようです。すごいですね。
これはマンガの電子媒体における道を切り開いた例だと言えるんじゃないかと思います。
◆感想まとめ
よくマンガ家になるのはムズカシイと聞きますが、
マンガ家になったとしても決して安心して生活できるわけじゃないことを知りました。
毎日休みなく、ときには徹夜で働いて、
その結果が借金で終わる人も多いというのは残酷な話ですね。
そもそもマンガ家のタマゴであるアシスタントさんもかなりブラックな労働環境ですよね。
ある連載漫画ではアシスタントの給料が換算すると時給180円になる…なんて話も載ってました。
冨樫さんの「ハンター×ハンター」はこういう事情もあって休載が多いのかもしれません。
佐藤秀峰さんですが、マンガとマンガ家のために一人で既存の仕組みと戦うなんて本当にすごい人だなあ、と思いました。
いまの社会ではネットを使わないビジネスがどんどん淘汰されてるように思います。
GoogleやAmazonがいい例ですね。
出版会社もこのまま何も変化がなければきっと倒産でしょうね。
既存の仕組みにあぐらをかいているのではなく変化し続けることがやっぱり大事です。
ダーウィンの
「強い者、頭の良い者が生き残るのではない。
変化するものが生き残るのだ」
という言葉を思い出しました。